Sense of Wonders

教頭 上川 恵

 国立近代美術館で行われている「ガウディとサグラダ・ファミリア展」に行きました。サグラダ・ファミリアは、ガウディが残した未完の大聖堂として知られています。その大きさと独創的なデザインは見る者に強烈な存在感を与えます。
 1882年に建設が始まり、40年ほど経った頃、ガウディは不慮の事故で亡くなります。その後も建設は続きましたが、スペインの内戦により彼が残した設計図や模型の一部が破壊されてしまいました。ガウディの構想を形にするのは不可能と思われましたが、職人による口伝えや残されたわずかな資料を元に、建築家たちがガウディの設計構想を推測しながら、現在も建設が続けられています。
 サグラダ・ファミリアの主任彫刻家に任命され、総監督として活躍している日本人の外尾悦郎さんのドキュメンタリーを拝見しました。ガウディが存命中に手がけた作品やわずかに残った設計図から、ガウディからの沈黙のメッセージに耳を傾け、最善を探し求める姿が大変印象に残りました。
 技術の急激な進歩により、いよいよ2026年に完成するのでは、と言われています。着工から140年以上。ガウディの没後100周年の年です。紆余曲折の長い歴史を思うと、完成の瞬間を見届けることができるのは夢のようです。
 ガウディは次のような言葉を残しています。
「創造的であろうとして意味の無いものを付け加えてはいけない。 自然の原理をよく観察し、それをよりよくしようと努力するだけでいい。」

 8月後半は、4年ぶりにオーストラリアでの国際交流プログラムが行われ、私も引率させていただきました。交流先のエマニュエル・アングリカン・カレッジ(EAC)は、ニューサウスウェールズ州の海沿いの小さな町、バリナにあります。岬から見たイルカの群れ、水平線に沈む夕陽、夜空に広がる天の川と南十字星、雨上がりに現れた半円のダブルレインボー。目に入る景色全てが美しく、眺めているだけで心が浄化されます。
 町で出会う人たちはどの人も皆親切です。散歩ですれ違えば目を見てニコッと挨拶してくれますし、お店の店員さんもおすすめのメニューを教えてくれたり、「どこから来たの?」「楽しんでね」と一言かけてくれたりします。タクシーに乗れば「眺めのいい場所があるよ」とわざわざ止まってくれました。あえて関わらないようにする人も多いこの世の中で経験するものとはまるで違う、人と人の関わり方がありました。
 週末は、釣竿片手に自転車で水辺に向かう若者たち、手を繋いで海辺を散歩する老夫婦、犬を連れてコーヒーやビールを嗜む人々……。環境が人をつくると言いますが、ゆったりとした時間、豊かな自然の中にいると、優しくおおらかになるのだなと感じました。

 夏の初めに読んだレイチェル・カーソンの「センス・オブ・ワンダー」。ガウディの「自然から学べ」というメッセージ。美しいバリナの町と人々の優しさ。この夏のトピックスが偶然にも繋がったように感じています。

謝辞
 お世話になったEACの先生方は大変友好的で、久しぶりの私たちの訪問を温かく受け入れてくださいました。アングリカンの繋がりを大切に思ってくださっている優しい笑顔のトバイアス校長先生、ホストファミリーやスクールバディ、現地でのプログラム等全てのアレンジをしてくださった、国際交流担当のジェン先生には特にお世話になりました。この場をお借りして御礼を申し上げます。

≪ チャリティ・デー ≫

 今年のチャリティ・デーは、「知的障がいのある方々の生活とそれを支える方々を知ろう」というテーマで、歴史的にも立教女学院と関係の深い、社会福祉法人滝乃川学園より本多公恵先生をお招きし、お話を伺いました。滝乃川学園は、1891年にキリスト教精神に基づき創設された、知的障がいのある方々のための福祉施設です。
 はじめに、滝乃川学園の歴史やどのような施設であるかを学びました。本多先生は、1年生にとっても6年生にとってもわかりやすい言葉で説明してくださいました。障がいのある人は困っていることがたくさんあること、困っていることがわかれば、私たちは何を手伝えばよいかがわかることに気づかされました。障がいのある人が困っていたら、「何に困っているのかな?」と気にかけること。うまくできないときは、「大丈夫だよ。」とはげまし、今、苦しいことと自分でたたかっているのだなと見守って応援することが支えになるというメッセージをしっかりと受け止めました。

 全校への講演の後、さらに学びを深めるために6年生を対象としたワークショップをしていただきました。手袋や軍手をした状態で鶴を折ったり、説明が不十分な状態で複雑な作業をしたりする活動を通して、手先が思うように動かなくてもどかしい気持ちや見通しがもてない不安な気持ちを経験しました。体験したのは困っておられることのほんの一部ですが、障がいのある人の気持ちに思いを寄せるひと時となりました。

~子どもたちの感想より~
・今まで、障がいのある人が大きな声を出していると、こわいと思っていました。けれど、その行動には理由があることがわかり、わかると「こわい」というイメージがなくなりました。
・一番印象に残ったことは、障がいのある方は、いつもどのように思っているかを体験したことです。うまくやりたいのにできないのは、イライラしてとてもつらいことだと想像できました。
・障がいのある方もみんなと同じで、できないこともあるけれど、できることもたくさんあることを知りました。
・私も、困っていることに気づいて手伝ったり、話を聞いたりできる人になりたいです。私たちにできることをもっと広げていきたいと思いました。

≪ 新しい複合遊具 ≫

 2008年9月に完成した「Joy Platz(ジョイ・プラッツ)」。子どもたち一人ひとりの身体能力に合った遊びを選択でき、体を動かすことの楽しさを感じられる新しい環境として導入されました。それから約15年が経過。老朽化が進み、8月末に(株)アネビーによる新たな複合遊具(砂場を含む)がついに完成しました。
 2022年4月に校内で「遊具検討委員会」が発足し、新たな遊具の選定に取りかかりました。学校として、遊具に対するコンセプトや要望を伝え、数多くの会社のプレゼンテーションを受けてきました。遊具としての魅力や楽しさ・品質・安全性・デザインなどを総合的に判断し、今回の新しい遊具に生まれ変わりました。
 遊具のコンセプトは「THREE TREES(3本の木)」~感覚とからだ遊びが育む根っこ力~です。以前、教頭から保護者会で説明があった通り、古くから伝わる「3本の木」のお話になぞらえ、遊びを通して子どもたち一人ひとりが自らのポテンシャルを引き出し、自分自身の価値を見出せるような遊具になるように設計されています。
 さまざまな動きを体験することによるバランスの良い身体の発達、高難度のアイテムを取り入れたことによるチャレンジ精神、自然と複数の子どもたちが集まることによるコミュニケーションが、豊かな成長を促します。
 「遊びは学び」。新しくなった遊具でスリルやドキドキ感をぜひ感じて欲しいと思います。思う存分遊んでください!

≪ オーストラリア国際交流プログラム2023 ≫

 8月20日~28日、今回で3回目となるオーストラリア・ニューサウスウェールズ州バリナでの国際交流プログラムを実施しました。主な目的は「異文化への理解を深めること」、「お互いの文化を尊重し合うよい友人関係を築くこと」です。6年生の希望者12名が参加して9日間、EAC(Emmanuel Anglican College)での現地校体験、ホームステイ体験を行いました。6月中旬から始まったプログラムの経緯をご報告します。

事前学習

 参加メンバーは、放課後を利用して3回の事前学習を実施しました。目的は、チームビルディング・プログラムの目的共有・生活のための会話学習・EACでのパフォーマンス準備です。オーストラリアでの短い滞在をより有意義なものにするため、皆が積極的に課題に取り組み、自覚と期待を高めて出発に備えることができました。

EACでの授業体験

 滞在期間中の平日(火〜金)は、EACの子どもとして学校生活を送りました。12名の参加者達は、4人ずつに分かれてyear6のクラスに入ります。荷物の置き場所・お手洗い・特別教室の場所など、わからないことだらけの学校生活は、EACの6年生が、スクールバディとなって支えてくれました。「日本語で話してくれようとした」「何度も聞きかえすのにも嫌がらずに答えてくれた」など、ちがう言葉を話す相手に対するやさしさに触れることができました。日を追うごとに「口が英語を話すようになってきた」「とっさに出てくる言葉が、“ありがとう”から、“Thank you” になっていった」など、英語の音の環境に適応していく自分自身にも気づいていたようでした。期間中は、中学校の体験入学やBook paradeなどの行事にも参加し、変化に富んだ学校生活を経験できましたが、どの場面でもEACの生徒・スタッフ・保護者の方々が笑顔で「ようこそ」の気持ちを示し続けてくださったことで、あっという間に緊張がほぐれていったと思います。EAC最終日。クラスメイトとのお別れでは、たくさん写真を撮り、メールアドレスを交換し、最後は何度もふり返りながら手を振り、また会おうねー!と約束し……。短い期間ではありましたが充実した学校生活を過ごすことができました。EACの子ども達、先生方、スタッフの皆様への感謝は尽きません。

ホームステイ体験

 バリナ滞在の6日間は、全てホストファミリーのお宅でのホームステイを経験しました。大らかで優しく、のどかな雰囲気の町に暮らしている皆さんは、どの方も本当に親切に受け入れてくださいました。放課後にビーチに出かけたり農場体験したり、電動スクーターで森を疾走したり、たくさんのお肉やソーセージを焼くBBQをいただいたりと、オーストラリアならではの暮らし方を楽しむことができたようです。バリナ滞在中、ホストハウスは6年生にとって大切な“帰る場所”となりました。最終日のお別れでは、ホストの車が見えなくなるまで大泣きの笑顔で手を振り続けました。「また会いにくる約束をしたから、これからもつながっていける」と言いきかせて、ぐっと涙をこらえる横顔は、このプログラムを通して成長したことを示す証のように思えました。9日間、日本の家族から離れてオーストラリアでの学校生活を送るという大きな挑戦が、今後誰かの役に立つための経験として生かされますように、また今回のプログラムを支えてくださった全ての方に神様のお恵みがありますようにとお祈りしています。

≪ 聖歌隊キャンプ報告 ≫

 7月20日、聖歌隊は群馬県榛名にある新生会にお伺いし、奉唱会を行いました。コロナ禍により3年ぶりの訪問となりましたが、利用者の方やスタッフの皆様に大変温かく迎えていただきました。神様と共に生きる喜びや安心を伝えられるようにと、歌詞の意味を考え練習を重ね、心をこめて歌いました。一緒に手拍子をしてくださったり、涙を流されたりする方もいて、自分達の歌声が相手の心に届いたことを実感することもできました。利用者の皆様の横でお話をする機会もいただき、ご自身の好きな歌のこと・ご家族のこと・戦時中のことなどを伺いながら、一緒に歌を歌いました。中には、女学院の卒業生の方や元チャプレンの先生もお越しくださって、なつかしい思い出話をたくさん聞かせていただきました。神様を賛美する歌を通じて、距離や時間を超えてつながることができる幸せをいただいたことに感謝しながら、これからもよい関係を続けていけるようにお祈りしていきたいと思います。