新しい「いのち」をいただいて
教頭 上川 恵
長い夏休みは、子どもたちに豊かな体験をと考え、それぞれのご家庭で様々な取り組みが行われたことと思います。初めて行く場所、初めて見るもの、初めて出会う人、初めて食べるもの、初めて知ったこと…。初めてのことは心がワクワクします。それは子どもも大人も同じです。
先日随筆家の若松英輔氏の講演を聞く機会がありました。彼は著書『ひとりだと感じたときあなたは探していた言葉に出会う』(亜紀書房)の中で「命」と「いのち」について次のように述べています。
生命体としての「命」は、その活動を数値で測ることができる。だからこそ測れなくなれば死を宣告される。しかし「いのち」はその働きを測定できない。「命」は身体と深く関係しているが、「いのち」は心と関係している。「命」は亡くなったあとは存在しないが「いのち」は亡くなった後も存在し続けると感じる。
私たちがワクワクしたり、心を動かされたりすることによって、「命」としての数値には何ら変化は無いのでしょうけれども、心が満たされる感覚を持つことができます。その感覚は、新しい「いのち」のエネルギーとして、明日につながっていきます。夏休みの間に、「いのち」のエネルギーをたくさんいただいた子どもたちが、どんな輝きを放つのか楽しみにしたいと思います。
立教女学院も新しい「いのち」をいただいて、先の未来に向かって動き始めています。「立教女学院ビジョン2032」で示された通り、2027年に訪れる学院創立150周年に向けて策定された中期計画が、着々と実行されています。
2023年度は中学校校舎とブリッジホールの外壁工事が終了しました。2024年度は小学校と聖マリア礼拝堂の外壁工事、小学校・中学校校舎3階天井裏の改修工事、小学校体育館の空調設置が予定されています。
夏休み中に完了した箇所をお知らせします。
➀バルコニーが樹脂製ウッドデッキに変わりました。以前は通るたびに「ガタガタ」と大きな音が響きました。ウッドデッキらしさではありましたが、授業中は随分と音が気になりました。またスノコの隙間に枯葉が溜まり、鳩や蜂が巣を作ったり、ムカデが発生したり、さまざまな生き物の温床になっていました。鉛筆や消しゴムを落とし、泣く泣く諦めた子どもたちは数知れません。今回すべて撤去し、溜まった枯葉等のゴミを掃除し、張り替えました。お母様方のヒールが挟まれることもなくなると思います。
②教室の窓ガラスをLow-Eガラスに交換しました。Low-Eとは「Low Emissivity」の頭文字で「低放射」を意味し、夏の暑さを和らげ、冬の暖房効率を高める効果があるそうです。強い西日による、窓際のロッカーや紙類の焼けが軽減されることと、快適な教室環境の一助になることを期待しています。
③体育館に空調が設置されました。年々記録を更新する勢いで進む気温の上昇は、命の危険という緊迫感を伴います。学校生活が安心安全な場であるために、体育館の空調設置は喫緊の問題でした。
④3階の天井の耐震補強と合わせ、3階の全教室の空調室内機の交換と、照明のLED化を来年度の計画に先立って行いました。
12月には外壁工事が終了する予定です。ご不便をおかけすることもあるかと思いますが、ご理解ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
チャリティ・デー
今年度は、日本聾話学校より鈴木実先生をお招きし、日本聾話学校の働きについてお話をしていただきました。日本聾話学校は、日本で唯一、手話を使わず「聴覚主導」で教育を行っている私立の聾学校です。創設者であるライシャワ夫妻とクレーマ女史が宣教師だったことからキリスト教の精神を土台にしている学校でもあります。
乳幼児教育を行う「ライシャワ・クレーマ学園」と、幼稚部から中学部までの「日本聾話学校」が同じ敷地に併設され、乳幼児という早い時期から補聴器や人工内耳を活用し、音のある生活を送れる環境が整備されています。
学校内には、オーディオロジー部が設けられ、補聴器や人工内耳のメンテナンスなどを毎日行う専門のスタッフが常駐しています。また、授業を行う教室内には、日本聾話学校が開発した「赤外線補聴システム」を設置したことで、補聴器特有の雑音などを軽減し、すぐそばで話しているかのように明瞭な音声を常に聞き取ることができるそうです。こうした手厚いフォローが、手話を使わず一人ひとりを大切にする教育に結びついています。
鈴木先生によると、全く耳が聞こえないという人はほとんどいなくて、一人ひとりに聞こえる音というのが必ずあるそうです。講演の中でも、大きなラッパの音に反応しなかった子どもが太鼓の音には反応する映像が紹介されました。高い音が聞き取れなくても低い音は聞き取れるなど、病院では「聞こえないですね。」で終わってしまう場合も、実際は必ず聞こえている音があるというのです。
今回、鈴木先生のお話を聞いた子どもたちの中でも、聴覚障がいに対するイメージがそれまで抱いていたものから徐々に変化していったようです。小さなやさしさでもみんなでつないでいくと、そのやさしさはより大きなものとなることを改めて感じた時間となりました。
児童の感想より
・あかちゃんがほちょうきをして、おかあさんのこえをきいてにっこりわらうと、おかあさんもうれしそうで、わたしもうれしくなりました。(1年生)
・赤ちゃんがほちょうきをつけて、音をはじめて聞けたときの笑顔を、社会に広げていけたらいいな。(4年生)
夏の自由水泳報告・体育館空調(エアコン)設置
今年の夏は非常に天候に恵まれ、連日30℃を超える暑い日が続き、子どもたちは気持ち良くプールに入ることができました。
自由水泳では、更なる「泳力向上」を目指し、3コース分はコースロープを張り、泳ぎの練習がしっかりとできるようにしています。練習した後には、「水泳能力検定」にチャレンジして、赤帽子から紺帽子になった子どもが数多くいました。おめでとうございます!
友達と楽しそうに泳いだり、かかわったりする姿が多く見られました。今後も一人ひとりが水泳を好きになり、泳力を高めていって欲しいと願っています。
また、体育館に待望の空調(エアコン)が取り付けられました。9月からはさらに快適な体育館で過ごすことができます。
南三陸教職員研修会 報告
7月25日・26日の2日間、小学校全教員で南三陸を訪れました。2015年度からスタートした6年生のスタディツアーは今年度で10回目を迎えますが、引率教員以外はなかなか現地に伺う機会が得られず、6年生の感想や報告プレゼンテーションを聞くことを通じてその様子を想像してきました。それでもやはり、実際に南三陸を訪れてみんなで同じお話を聞き、同じものを見て思いを共有したいという願いは年々強くなっていきました。そして今回遂に、念願かなって教職員研修会を実現させることができました。
今回の研修の目的は「人に会うこと」でした。悲しい震災がきっかけではありましたが、10年を超えるつながりを保つことで、私たちは既に「ともだち」になることができました。これまでの6年生が口々に「また会いたい!」と語る南三陸の方々に、教職員全員で会いに行くことは、その関係をより深く確かなものにしてくれるという確信がありました。2日間かけて、6年生がスタディツアーでお世話になっている場所を一つひとつ同じように訪ね、現場を見てお話を聞きました。子どもたちが嬉しそうに話していたのはこのことだったのか、と納得しながら各場所を廻りました。現地では、南三陸研修センター代表の阿部忠義さんや佐藤仁町長をはじめ、町の方々が本当に温かく私たちを迎えてくださいました。みなさんは、これまで6年生を受け入れて下さった時の様子を、まるで自分の親戚の子どもや孫の成長を語るように話してくださいました。遠く離れてはいるけれど、子どもたちを思い、見守り続けてくださっていることが伝わり、胸が熱くなりました。立教女学院小学校と南三陸がお互いを思い合う関係が築けていることを実感できた、素晴らしい時間でした。
子どもたちと向き合う際に、被災された方々の思いを自分の言葉で語ることができるのは、教職員一人ひとりにとってとても意味のあることです。研修中は、移動のバス車内でも食事中でも絶えず、お互いの考えや思いを交わしながら自分なりの理解を深めることもできました。今回得た学びを、これからの子どもたちとの日々に活かしていけるように努めていきます。
研修を通じて私たち教職員も「南三陸lover」になりました。チームとして、この絆を途切れさせることなく大切に紡いでいける私たちでいたいと思っています。このつながりを築くために力を尽くして下さった全ての方々に、心から感謝いたします。