学校生活

小学校だより

2019/1/30

第240号 2019年1月8日

Tabula rasa    教頭 吉田 太郎

 新年、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。
 年末から「平成最後の○○」という枕詞が盛んに使われるようになり、「平成」も終わるのかぁ……。と感慨深く思っておりましたら、平成31年がしれっと始まっていました。女学院に勤めていますと、役所関係以外の書類は全て西暦を使うため、元号に疎くなってしまいます。
 さて、今号はお正月っぽく皇室の話題から。昭和の終わり、昭和天皇が崩御したのは、私が中学3年生の頃でした。日本中が一斉に喪に服していた頃、クラスの仲の良い友人と天皇制の是非を巡って議論し、険悪な関係になったことがありました。中学生ながらに日本人の精神性に染み渡る皇室崇拝思想に対して違和感を覚え、抵抗を試みましたが、非常識とも非国民ともとれる批判を受けて憤ってしまった、そんな苦い記憶が蘇ります。あれから30年。今では音楽会や式典、軽井沢御用邸へ足を運ばれる美智子皇后の姿を見かけるだけで感激してしまうミーハーな私ですが、新年の一般参賀に訪れた15万人以上の国民の姿が報道されると、やはりなんとも言えない違和感を覚えてしまいます。ちなみに現在、全世界で王室や皇室を持つ国は28カ国。うちアジアではタイ、ブルネイ、カンボジア、マレーシア、ブータン、そして日本の6カ国となっています。王室の中で最も有名な英国では90歳を超えるエリザベス女王が健在ですが、王室の人気維持のために、ダイアナ元妃が残した二人の王子と妃を前面に出して開かれた王室を懸命にアピールしていると言われています。世界では民主主義国家における王室、皇室のあり方の模索が続いています。
 2019年、全国の小学校では新指導要領の実施に伴い、プログラミング教育が本格的に始動していきます。生まれた時からiPhoneなどのスマートフォンやタブレットパソコンが身近なツールとして手の届くところに存在してきたDigital Native世代の子どもたち。AI時代の到来により、AIの判断と推薦のみを鵜呑みにして生きることになるのではないかという危惧も囁かれます。気がつけば、我々もAIサービスの恩恵を受けながら、買い物だけでなく、休日に聴く音楽でさえRecommendに従うことが多くなっているのではないでしょうか。AIというテクノロジーは便利ではあるけれど、反面、子どもたちが自分で感じたり、知的興味を持ったり、切実に欲求することを阻害することにもなりかねません。与えられたものだけを消費することに馴化した子どもに、新しいものを生み出すクリエイティビティが育つのだろうかと不安になります。
 小学校の教育は、新しい知識や技術の獲得と同時に、自ら考える力、発見する喜びを大切にするものでありたいと願っています。世間では当たり前とされる前提に対しても、違和感や疑問を持っても良いこと。自分自身の考えを表明することを阻害されないこと。自分と同じように他人を大切にする基本姿勢があれば、実現可能だと思います。

 英国の哲学者、ジョン・ロック(1632〜1704)は、私たちの心はTabula rasa(タブラ・ラサ)「何も書かれていない石版」であり、人間に生まれついての優劣はない。という経験主義を唱えました。私たち人間は「教育」によって出来上がるとする価値観を提供したことになるのですが、人は経験や学習によっていくらでも学び直しが可能であり、学ぶことによって社会的隷属状態から解放され得るのだという思想です。このTabula rasaは、のちのアメリカ独立宣言(1776)、フランス人権宣言(1789)に影響を与えます。奴隷の所有が当たり前の時代に、「生まれつき」を否定する画期的な思想でした。ちなみにラテン語のTabulaがTabletの語源となっているのですから、シナイ山から降りてきたモーセもきっと苦笑いすることでしょう。

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≪サケの稚魚に会えます!≫
 サケは「家庭で日頃最もよく購入する魚介類」の中で、マグロ、サンマを抑えて1位であり、最も食卓に上がる魚です。また2年生の国語には「さけが大きくなるまで」という教材もあります。そのため、総合学習の一環としてサケの飼育をしている学校もあるのですが、東京において実現するのは、とても難しいのです。飼育の難易度の高さもさることながら、そもそもサケの受精卵が手に入りません。
 淡水魚は、となりの川であっても遺伝子型が違うと言われており、魚類の安易な飼育・放流は遺伝子の交配・拡散を意味します。純粋な東日本型のクロメダカが東京から絶滅したと言われるのもこのためです。(2007年に杉並において発見された純粋種は、葛西臨海水族園にて飼育されています)貴重な水産資源であるシロザケの受精卵は、取引が厳しく制限されており、受精卵や稚魚がペットショップで販売される事は決してありません。今回久慈川漁協より学校でお預かりしているサケの稚魚たちは、サケの人工孵化事業の一端を担わせていただいており、環境保全の観点からも学院の目の前を流れる神田川に放流して良いものではなく、生まれ故郷である茨城県の久慈川に戻すべき命なのです。
 3学期に入り、親からのプレゼントである腹の「さいのう」の栄養で、稚魚は魚らしい姿に成長してきました。「さいのう」が小さくなると自分で餌を取り始めます。子供たちにとってサケの成長の観察を通して、自然と人間との付き合い方に関心を持つきっかけにもなることを願っています。(大澤)

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≪色鉛筆≫
 「おーっ、これも日本製なの?!」「日本人すご過ぎる!」
 暮れに上野・国立科学博物館「日本を変えた千の技術博」に甥っ子と行った際に2人で連発していたセリフです。日本の知恵と匠の技に魅了されながら見学を進めるうちに、これらは個の力だけではなく組織力の結晶であることに気づかされました。展示物の多くが商品として開発されたものですが、企業内のグループやチームで創り上げられたものであり、グループ・チーム内外の葛藤・確執・妥協を乗り越えてきたことに間違いはありません。
 不寛容の時代と言われて久しい現在です。国家間、民族間のみならず、商取引や個人間のやり取りにおいても見られるこの不寛容さを日常と捉えてしまっている自分に愕然とします。しかし、この日、眼にした展示物は前述の逆風に耐えただけでなく、メンバーの各々足りない部分を補い合ったり、失敗を受け入れ合ったり、反対意見に耳を傾けたりして創り出された物たちでした。正に寛容の賜物ではないか-自分にはそう感じられました。我が身を振り返り……寛容や謙虚さで何か事実を生み出すことができただろうか……恥じ入るばかりです。
 「来年はもう少し器の大きい人になりたいなぁ。」なんて夢想しながら、山の上の青空と西郷どんを見上げて歩く大晦日(おおつごもり)迫る日の午後でした。(事務長 中村裕樹)

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