実りの秋
校長 児玉 純
昨年の2学期は、緊急事態宣言の中、始業式の次の日からオンラインというスタートでした。今年は、コロナの影響は大きく残ってはいるものの、休校にすることなく通常の登校を続けられたこと、全校保護者会を三鷹台のキャンパスで対面で行えたことなどたいへん感謝なことでした。このところ感染者数が大きく減ってきたことも、明るいニュースです。とは言え、重症になられる方、亡くなられる方がまだ相当数いることを思うと気を緩めるわけにはいきません。引き続き感染予防に努めていきたいと思います。
9月に入って、立て続けにスタディツアーが行われました。5年生の金砂での稲刈り、6年生の南三陸での様々なワークショップなど、現地で直接体験でき、子ども達の心に大きなものが残ったのではないかと思います。3年ぶりでしたが、現地の方達が笑顔で迎えてくださって、私たちの訪問を喜んでくださったことが本当に感謝です。
私が引率した6Bのスタディツアーでは、震災に関して2人の方(佐藤さん、芳賀さん ※語り部)のお話を聞きました。佐藤さんは石巻の大川小でお子さんを亡くされています。「大川小の校歌は、『未来をひらく』なんですよ。」と、お話しされました。(「大川小 校歌」で検索すると、校歌を聞くことができます。)また、南三陸で最後まで防災無線で避難を呼びかけ続けた遠藤さんは、芳賀さんのご親戚だそうです。津波の数時間前に、お茶を入れてもらって談笑したことを悲しそうにお話しになりました。この遠藤さんの名前が「未希」。偶然ではありますが、どちらも未来につながるお話だったように思います。お二人とも、過去のつらい話を聞かせるためだけに語っているのではなく、「3.11のことは決して忘れない。でも、ここにとどまっていないで未来に希望を持って進んでいく。」という強い思いを私は感じました。子ども達にとっては、聞いたこと、読んだこと、歴史上の出来事として捉えていたことが、自分事として受け止められるようになった意義深い3日間になりました。
さて、来週末は運動会が予定されています。久しぶりのフルプログラムです。子ども達が力一杯躍動する姿、笑顔いっぱい表現する姿をぜひ楽しみにしていただきたいと思います。また、当日は大きな拍手を(声援は感染予防上控えめに)をお願いいたします。今年から、短距離走(徒競走)の上位者に対するリボン配布をやめました。それは、ゴール目指して精一杯がんばったすべての子を同じように賞賛したいからです。私は時々子ども達に次のように話しています。「競技をやるなら勝負なので勝つこと、1位になることを目指さないとだめ。それは絶対条件。でも、勝てなくても、1位になれなかったとしても、それまで努力することが大切で、それは尊いことですよ。」皆の前で走ることすら嫌な子がいると思います。1位でゴールテープを切った子とテープを切れなかったけど最後までがんばった子と平等に拍手と賞賛を送りたいと思っています。
実りの秋です。作物は豊かな収穫期を迎えます。子ども達も様々な行事を通して多くのものを自分の中に蓄えていきます。子ども達一人ひとりが豊かな実りを自分自身で実感しながら成長していく、そんな秋を今年も期待しています。
「ところが、ほかの種は、良い土地に落ち、実を結んで、あるものは百倍、
あるものは六十倍、あるものは三十倍にもなった。耳のあるものは聞きなさい。」
(マタイによる福音書 13章8節)
≪5年生 金砂郷スタディツアー≫
5月には青々とした田園風景が広がっていた金砂郷。私たちが植えた苗はどんなふうに成長しているのかしら?とわくわくしながら田んぼへ向かうと、立派な穂を実らせていました。「うわぁ、すごい!」「ちゃんと育ってる!」と喜びの声がこだまします。そんな私たちを、金砂の方々が温かい笑顔で迎えて下さいました。まだお会いするのは2回目なのに、もう何度もお会いしているような懐かしい気持ちになるから不思議です。慣れないカマを使い、稲を刈っていく作業と、刈り取った稲を藁で束ねていく作業は想像以上に体力を使う仕事でした。子どもたちは途中で水分補給をしながら、一生懸命に時間を忘れて稲刈りを行いました。バインダーという機械を使った作業では、機械がいとも簡単に稲を刈り束ねていく様子に驚きの声を上げ、機械化の必要性を肌で感じた瞬間でした。
交流会では、金砂の方々にも一緒に口ずさんでいただける曲を選び、A組は「赤とんぼ」B組は「もみじ」を歌いました。金砂の自然に溶け込んでいくような子どもたちの歌声が、稲を育てて下さった金砂の方々へのささやかな感謝の気持ちとなり、届いていたら嬉しく思います。
夕飯は地元の食材を使い、さつまいもの甘煮、おにぎり、そして郷土料理である「つけけんちん蕎麦」を自分たちで作りました。友達と協力して作ったご飯のおいしさは、格別でした。
2日目は「武藤観光農園」でのぶどう狩りを体験しました。常陸太田のオリジナル品種である「常陸青龍(ひたちせいりゅう)」は瑞々しく、酸味と甘さが絶妙なおいしさでした。武藤さんから様々なお話を伺いましたが、「ぶどうを食べに来るハクビシン等の生き物を駆逐せず、共存共栄を大事にしています。」とおっしゃっていたことは、子どもたちの心に強く残りました。
体験を通して学ぶことの大切さとその豊かさを、改めて感じる2日間でした。
≪水泳指導≫
一昨年は、新型コロナウイルス感染症の感染者増加にともない、4日間実施したところで突然の中止(そのまま終了)。そして、昨年も中止になっていた水泳の授業。今年は、子どもたちが安心・安全に楽しく授業に取り組めるように、感染対策に十分気を付けながら、6月27日~7月19日まで計14日間にわたって無事に実施をすることができました。
主な新型コロナウイルス感染症対策としては、①消毒の徹底 ②密となるプール更衣室の使用禁止(今年はクラスごとに教室で更衣)③指導員や指導教員の飛沫を防止するプールマスクの着用 ④水泳指導中以外での子どもたちのマスク着用の徹底の4点です。
コロナ禍の中、これらのことを守り感染症対策に子どもたち一人ひとりが意識を高く持ち、水泳の授業に臨みました。授業は、藤村水泳教室の指導員・体育科教員・クラス担任でそれぞれ役割分担をしながら指導を進めていきます。学年によって学習内容は異なりますが、3グループ程度に分かれて、「水慣れの運動」「けのび」などから始まり、ビート版を使ってバタ足や呼吸の練習、そして「クロール」「平泳ぎ」「背泳ぎ」などの泳法でたくさん泳ぎました。どのグループも繰り返し練習を積むことで、泳ぎのコツを自分自身の体で覚え、泳ぐ楽しさを味わうことができたと思います。授業は2時間続きで行っているので、時間的にもゆとりを持って取り組むことができ、子どもたちが日々少しずつ上達している様子を見ることができました。
例年開催されている夏休み中の自由水泳は、「水泳能力検定(以下、検定)」のみを実施しました。新型コロナウイルスが猛威を振るい、残念ながら7月中は急遽中止となってしまいましたが、8月末の2日間で50人が検定にチャレンジし、見事に36人が合格。夏休み中の練習の成果を存分に見せてくれました。おめでとうございます!
<日記より>
・私はこんぼうしになりたかったのでクロールを50メートル泳ぎました。一度も50メートルを泳げたことがないので、全部泳げるか心配でした。最後はとてもつかれたけど、ゴールしました。うれしかったです。
≪6年生 南三陸スタディツアー≫
6年生は3年ぶりに2泊3日で南三陸スタディーツアーに行ってきました。
1日目は、2011年3月11日に起きた東日本大震災についての学習で、旧石巻市立大川小学校に向かいました。ここは、多くの児童や教職員が逃げ遅れて大きな被害が出た場所です。6年生は、入学してからのチャリティデーや礼拝を通し、震災のことについて知識としては知っていましたが、実際に、語り部の方の話を聞きながら当時の足取りをたどり、想像以上の津波の破壊力で壊れた小学校を前にし、絶句していました。それと同時に、自分たちと同じ小学生の日常が突然終わってしまったことの悲しみや恐怖を想像し、語り部の方の「考えることも大切だが、行動する力がもっと大事。自分の命は自分で守る。人に任せずに自分で考え判断して行動できるように、日頃から過ごしてほしい」というメッセージを真摯に受け止めていました。
続いて南三陸町に向かい、旧戸倉中学校に行きました。当時の校長先生の判断で、高台にあった戸倉中学校よりもさらに高い裏山に避難させたため、多くの命が救われた話を聞き、「行動することの重要性」と「命の重さと大切さ」を学びました。そして、南三陸町震災復興祈念公園に行き、防災対策庁舎を間近で見たあと、祈りの丘で祈りを捧げました。夜のふり返りでは、亡くなられた方の悲しみや悔しさに心を寄せるとともに、2つの学校の行動が結果を分けたことを深く受け止め、二度と悲劇を繰り返さないとの誓いを共有しました。
2日目は、南三陸町が有する自然体験を通し、震災後の復興について、また豊かな陸と海の環境をどのように生かし守っていくかという話を伺いました。漁港に行って実際に漁船に乗船して内海と外海の違いを体験し、コシがあって肉厚な特産のワカメやホタテなどの養殖場も視察しました。また、南三陸の志津川湾でとれる海藻を使ったオリジナルふりかけ作りも体験しました。「震災を経験し、海に行くことが恐くなったが、それでも海なくしては生活していけない」というその地で生活する人の声を聞き、目の前に広がる海には多くのかおがあることを知りました。そして、恐怖がありながらも前に進む強さと、自然と人が上手に共生することを考えるきっかけを教わりました。南三陸の海は震災だけでなく、温暖化や海洋プラスティックなどのごみによっても変化が見られることも知りました。ビーチクリーンを体験し「とりきれない海洋プラスティックにより生態系が崩される。豊かな海を守るには自分の町をきれいにすることが大切。」とのビジターセンター館長の話が心に残ったようで、「町のごみ拾いを休日にしようかな。」「エコバッグを使って無駄なビニールを使わないようにしよう。風で飛んでごみになったら困るものね。」と、自分たちにもできることがあることを知り、具体的に考え、実行しようと心に決めていました。農業では、「20年以上肥料を撒かなくても、おいしいリンゴができる。山も人が適切に手入れをしていくことでおいしい農作物がとれ、そして、海も豊かになる。」という話を伺い、自然のサイクルに人の力も必要であることも学びました。実際に山一面に広がるリンゴ畑で収穫したてのリンゴをみんなでかじり、感謝をしながらいただきました。
3日目は南三陸が多く有する森林についてお話を伺った後、間伐材を使ってペンスタンドを作りました。3日間を通して、一人の力は小さくても多くの仲間と協力し合うことで大きな力になり、多くの課題を乗り越えられること、また、自分でよく考えて行動する大切さと、命の重さを学ぶことができたようです。将来を担っていく自分たちがどのようなことができるのか、していくべきなのか真剣に考える姿には、未来の社会人としての自覚と責任感が感じられました。