記憶の中にあるもの

記憶の中にあるもの     教頭 上川 恵

 20年以上も前の話になります。春休みにイギリス郊外の小さな教会を訪ねました。美しく整備された教会の庭に、色とりどりの花が植えられており、その中に三つの十字架と石で作られたほこらがあるのを見つけました。これは何かとたずねると、教会のご婦人たちが造ったイースターガーデンだと聞かされました。その時初めて「イースターガーデン」という言葉を知りました。心に強く残ったことは何年経っても忘れないものです。今年、小学校の玄関に並ぶ花壇の一角に、小さなイースターガーデンを造りました。イギリスで見たような立派なものではありませんが、質素な十字架とほこらもいいな、と自己満足しています。

 春の匂いを嗅ぐと、お腹の奥がくすぐったくなるような、独特な感覚を覚えます。子どもの頃、新学期になるといつも感じていた感覚です。きっとその時の思い出が、自分の中のほんの小さな細胞が覚えているのでしょう。気持ちが自然とワクワクしてきます。
 藤の花の匂いを嗅ぐと、立教女学院に就任したばかりの初々しい自分が甦ります。
 初めて聖マーガレット礼拝堂に入ったときには、なぜだか前にも来たことがあるような気持ちになりました。凛とした空気、木の匂い、天井の高さ、薄暗さ、重い木の扉……。もしかすると3歳まで過ごしたロンドンで通っていた、教会の幼稚園の記憶かもしれません。鮮明には思い出せないけれど、私の中の細胞が覚えていたのだと思います。

 五感と記憶は密接な関係があるようです。
 調べたところによると、五感の中でも唯一「匂い」だけが、脳の感情・本能に関わる部分に直接伝達され、リアルな感情を伴った記憶を想起させるきっかけとなるのだそうです。フランスの文豪、マルセル・プルーストの著書『失われた時を求めて』の中に出てくる「マドレーヌが焼けた匂いとともに昔の記憶が甦る」という一節から「プルースト効果」と呼ばれているとのことでした。
 久しぶりに実家に帰った時の気持ちはこれかもしれません。おばあちゃんのレシピで夕飯を作っていると、我が子は「ばあばのご飯だ!」と叫びます。小さい頃散々面倒を見てもらった我が子も、匂いにつられて記憶が鮮明に甦るようです。

 新学期がスタートして1ヶ月。歓迎遠足、イースター礼拝、健康診断、保護者会、個人面談、立教小学校との交歓会……過去2年は中止や変則開催を余儀なくされた行事が、今年は従来通りの形で行えたことを嬉しく思います。

 本校で過ごす一瞬一瞬が子どもたちの五感を通して記憶され、自己形成へとつながっていくことでしょう。自分という存在の尊さを見出し、神さまと人に愛される子どもになりますように。そして、大きくなって思い出す記憶が美しいものでありますように。

1・6年生 歓迎遠足 4月13日 ~井の頭公園・井の頭自然文化園~

バディルームへようこそ! 新しい仲間 アイメイト犬

 ベローナとクレアがいない学校……と思っていた子どもたち。 
 始業式に犬の姿を発見!「わあっ♪」という喜びの声が礼拝堂に響きました。週に2回ほど登校するのは、アイメイト候補犬。盲導犬になるための訓練中の犬です。私たちは犬の温もりを感じたり、犬の気持ちを考えたり、視覚障害者の方のことを知ったり、犬に関わる仕事を知ったりと、学ばせていただくことがたくさん。犬の方はというと、子どもたちがいる環境に慣れたり、授業中は静かに待ったり、様々なタイプのフロアを歩いたりといったことが訓練になるとのことです。「犬には気持ちが伝わるんだよ」と、早速に指導員の方のお話。「さわりたい!」「かわいい!」うれしい気持ちの子どもたちの手がたくさん出てきて触られても平気な犬たちはあっぱれです。

*アイメイト協会では盲導犬になる犬のことをアイメイト、訓練士を歩行指導員と呼んでいます 。