“I would hope the best, but prepare for the worst.”
“I would hope the best, but prepare for the worst.” 教頭 吉田 太郎
第5代ローマ皇帝ネロの幼少期の家庭教師であり、ネロが皇帝となった以降も政権ブレーンとして国家を支えた哲学者ルキウス・アンナエウス・セネカの言葉です。これは「最善を願いながら、最悪の事態に備える。」という格言として英語圏では広く知られている言葉です。
1月17日で阪神淡路大震災から27年。「関西では直下型の地震は起こらない。」「地震の多発地帯は関東。」というのが定説となっていた中での大地震。あの朝、美しい神戸の街が一夜にして炎に包まれ、高速道路が横倒しになったニュース映像に大きな衝撃を受けたことを今でも鮮明に記憶しています。そして、2011年3月11日の東日本大震災、2016年の熊本地震。台風被害や豪雨災害といった自然災害が毎年のように続きます。
2022年1月15日13時頃、遠く離れた南の島トンガの海底火山(フンガ・トンガ・フンガ・ハーパイ火山)で大規模な噴火が発生しました。噴煙は上空1万6,000キロの高さにまで達する大規模なもの。海底ケーブルが断たれたこともあり、現地の詳細な被害情報はしばらく入ってきませんでした。
日本にも少なからぬ影響を与えた海面上昇について、噴火が起きた当日の19時過ぎ、気象庁からは『津波被害の心配はない。』との発表がありました。ところが同日23時ごろ、潮位の変化が観測され、日付の変わった深夜には『奄美群島、トカラ列島に津波警報、太平洋沿岸の各地に注意報』が出されました。今回発出された津波警報は、いわゆる通常の津波とは違う現象だった可能性が高いそうです。通常の津波は、地震などの地殻変動で起こるものとされていますが、火山噴火の場合には、山自体が崩壊することで大量の土砂が海上に流れ込む、あるいは爆発によって海面が隆起することによって津波が発生するもの。とされています。ところが、今回の津波はどうやら従来のメカニズムだけで起こったことではなかったのではないか、ということです。複数の専門家は、噴火に伴う大気中の衝撃波、すなわち空気の振動が気圧、潮位の変化を引き起こしたことが原因ではないかと分析しています。これは統計史上初めての現象だったそうです。噴火直後より、気象庁の会見では「わからない」という言葉が繰り返されました。それでも現実の被害をいかに軽減するか、ということに重きを置いて、津波警報・注意報を発出するという判断をしたのです。「なんだよ、こんな夜中に人騒がせな。」という意見もありました。しかし、見方を変えれば、複数の専門家がこれまでの知見を総動員しても理解できない現象が起こった時に、人の命や社会を守るために、すぐになんらかの判断をしなければならなかったのだろう、と想像します。
もう2年あまり、世界中が未知のウィルスに翻弄されてきました。医療従事者は多くの犠牲を払いながら、人々の命を守るために献身し続けてくださっています。もちろん私たちも少なからず我慢や不自由を強いられてきましたし、経済的困窮に追いやられている事業者の方々がいます。そして学校活動が制限され、子どもたちの学びが十分に保証できない日々が続いていることに、心苦しい思いもあります。何が正解か判らない課題にどう向き合っていくのか、私たちの宿題はこれからも続きます。“I would hope the best, but prepare for the worst.”という選択は、コロナ後に振り返った時、答え合わせをすると及第点がもらえるのか否か?
果たしてセネカが良いブレーンだったかどうか、という歴史的な事実に照らし合わせますと、いささか不安もよぎりつつ、「最善を願いながら、最悪の事態に備え」たいと考えています。
創立90周年 記念礼拝・小さなコンサート
2021年度 本校は創立90周年を迎え 神様のみ守りの中、心温まるお祝いをしました。
1931(昭和6)年、立教高等女学校附属尋常小学校開校。
当時、学校の周りは畑や草地で、井の頭線はまだなく、国鉄(現J R)西荻窪駅が最寄駅。見通しのいい風景の中に正門と西洋風の建物がそびえて見え、岸田衿子(5回生)・今日子(6回生)姉妹のお父上である劇作家の岸田國士氏はその佇まいをご覧になって「金の鳥籠に娘を入れたい」と思ったとのこと。
風景は変わりましたが、当時から変わらないのは、子どもたちのかわいい笑顔とスカート姿、見守ってくださるご家庭や関わる方々の温かさです。
記念礼拝の説教では、元学院長の中村邦介司祭が90年の歴史と意義をわかりやすくお話しくださいました。ヘイウッド先生のこと、戦時中のこと、小川清先生のこと、キャンプ場のこと、マリア礼拝堂を鷲の翼の中にいるイメージで設計したこと、東日本大震災のこと。歴史を思い起こし、神様の大きな恵みに感謝してこれからの歩みに向かって力に変えていく。後ろ向きに進むボートに例え、前に過去があり、まだ見えない未来は背中にあり、そこに向かって進んでいくという考え方が聖書には書かれている。歩みに、み守りに感謝し、関わる方々に神様の祝福があるよう祈りました。
90年の間には時代の流れに合わせて変化が必要でした。今回の新型コロナも然り。
「たいせつなのは、新しく創造されることです」(ガラテヤ書6章15節 学院創立110周年記念聖句より)
伝統を大切にしながらも、いつでも「子どもたちにどうか」を考えてまいりました。本物の音楽を聴く行事は、大切にしてきた事のひとつです。礼拝後、プロの音楽家になった卒業生二人による小さな(3曲だけの)コンサートを行いました。自分のしたいことに向かって努力してきた素敵な二人。心を揺り動かされる演奏とお話でした。刺激を受け、後に続く在校生が出るのも女学院の良さです。
過去に行われた周年行事のように賑やかなことはできませんでしたが、心温まる時間を共有し、お祝いすることができたことを主に感謝いたします。
6年生理科 ふれあい天文学
宇宙のことを身近に感じて興味をもってほしい、学校の近隣で最先端の研究が行われていることを知ってほしい―。そんな願いを込めて、今年も国立天文台から講師をお迎えして出張授業「ふれあい天文学」を実施しました。講師は、日震学と星震学が専門の関井隆先生(太陽観測科学プロジェクト)です。
黒点が多いときのほうが太陽が明るくなること、星は色によって寿命が異なること、星は数十年かけて動いていること、宇宙には星が多い所と少ない所があること、宇宙は膨張すること、ブラックホールの事象の地平線に近づくと時間の進みが遅れること、人工衛星ひのでから見た太陽、宇宙から眺めた美しい銀河……最前線で活躍する研究者から興味深い話をたくさん聞くことができました。驚いたり、不思議に思ったり、疑問を感じたり。遠く離れた、でも私たちが住んでいる宇宙について各々が考える時間となったようです。
―6年生の感想より―
・自分たちの知らない、未知の世界は終わりがなく、それを求めて研究している方々は本当にすごいと改めて思うことができました。いつも何気なく耳にする言葉も「誰かが努力をして発見したり開発したりして生まれた」ことを心に置きながら過ごしたいと思います。
・現代の望遠鏡では、光だけでなく電波やX線も観測していると聞き、どんどん進化しているなと思いました。
・一つひとつの星の間隔がとても広いので星と星がぶつかってしまうことはほとんどないとおっしゃっていたので、計算して人工的に作ったわけ ではないのに、すごいなと思いました。宇宙で起こっていることは人間が考えたことではないので自然ってとてもおもしろくて興味深いなと思いました。