金砂で学んだこと

金砂で学んだこと    校長 児玉 純

 緊急事態宣言が、ようやく解除になりました。オンライン授業、分散登校と子ども達はもちろん、ご家庭にも大きな負担をおかけしていたこと、たいへん申し訳なく思います。今回の第5波は、子ども達(10歳未満)の感染率が急増したこともあり、慎重にならざるを得ませんでした。ご理解、ご協力いただいたこと、本当に感謝いたします。

 2週間ほど前に、5年生のオンラインスタディツアーのために、茨城県の金砂に行ってきました。例年なら5年生が春の田植えも秋の稲刈りも直接体験する予定でしたが、今年はどちらもオンラインになってしまいました。今回は手刈りではなく、農家の方にコンバインで一気に刈り取りから脱穀までやっていただく予定で出かけました。心配なのは雨でしたが、何とか持ちこたえてくれて、曇天の田んぼに到着しました。ところが、そこで思わぬ事態に遭遇しました。私たちが見たのは、田んぼの泥にはまったコンバイン。今年は雨が多かったため、田の水抜きがうまくいかず湿田のようになっていたためでした。農家の方が、トラクターを出動させて何とかコンバインを引き上げることができましたが、もう少しで救援のトラクターも身動きが取れなくなるところでした。
 春の田植えの時も、今回の稲刈りでも、「お米を育てるのに一番大変なのは水の管理だ。」と教えてくださった農家の方の言葉を実感しました。また、自然災害に対してどう対応するのかという子供の問いに対して、「自然のことだから、ある程度の準備はするけど最後はあきらめる。」という答えも印象的でした。

 今回のオンラインツアーで学んだことがいくつもあります。
 まず、農業に携わる方たちの生き方、生き様です。自然と戦いながら、それでも自然と一緒に、あるときは自然に従って生活をされています。もちろん道具は進歩し、技術は日々新しいものが開発されていますが、太古の昔から人間が続けてきた生き方ではないかと思います。
 二つ目は、金砂の皆さんの温かさ。これは先日行った南三陸でも感じましたが、皆さん、立教女学院の子供たちをとても愛してくださっています。直接会えないことを残念に思いながら、画面の向こうにいる子供たちの存在を喜んでいました。金砂の皆さんの愛情は、精米されたコシヒカリという形になって、しばらくしたら三鷹台に届くことになっています。その時、改めて感謝の気持ちを表したいと思います。
 三つ目は里の自然の面白さです。黄金色の稲、真っ白いソバの花、道のわきにはショッキングピンクの曼殊沙華が咲いています。川に入ると川エビやドジョウ、モツゴなどがすぐに網にかかります。虫の声、鳥の声。気を付けないと、足元に蛇がやってきます。こんな中で暮らしていると、人間性が変わってくるのではないかと思わされます。
 一方、オンラインという技術によって遠い常陸太田市と三鷹台が双方向で交流できます。5年、10年前には考えられなかったことですが、パンデミックによりその技術や設備が驚くほどの速さで広がり、進展しました。私たち教員も、「そんなの分からない。」「やったことないからできない。」なんて言っていられなくなり、「どうしたらもっと活用できるか。」と発想を大きく変えるこの1年半ではなかったかと思います。

 そして、一番強く感じたことは、金砂でも南三陸でも、やはり直接交流するからできる「人と人のつながり」の大切さです。よく、社会科の教科書に、「農家の〇〇さんのお話」などが書かれていますが、どうしても他人事の学習になってしまいがちです。でも、自分たちを知ってくれている、自分たちを大事に思っていてくれる人が語ってくれる言葉は、子ども達の中で大きく膨らんでいきます。本校の建学の精神の中にも謳われている「かけがえのない命を大切にする。」「自分を愛するように他人も愛する。」「どんなときにも自分たちを守ってくださる方がいる。」ことを、実体験の中からも学べる貴重な機会になっています。これからも、このようなつながりを大切にし、子ども達を全人的に成長させていかれるように努めていきたいと思います。

≪4年生社会科 水道キャラバン≫ 

 9/17(金)に東京都水道局から水道キャラバンの方が学校へ出前授業に来てくださいました。コロナ渦の中、今年度は授業をしていただくのは厳しいと半ばあきらめていましたが、オンラインを使って、学校からご家庭に配信する形で実現することができました。 
 日ごろから蛇口をひねれば当たり前のように出てくる水が、どのように私たちの元に届けられているのか、また、浄水場の仕事、日常生活における水道水の役割などについて教えていただきました。
 灰色に濁った水を飲み水にする実験では、沈殿・ろ過の工程を経て、見違える程にきれいになった水を見て、オンライン越しでもはっきりわかるほど、子どもたちが驚いている姿を見取ることができました。またこの過程は、実際には約8時間もかかるということを知り、安心・安全に水を飲んだり使ったりできるのは、水道に関する方々が私たちの見えないところで日々努力をしてくださっているおかげだと知ることができた、良い機会になりました。 学習後の子どもたちからは、「東京都全体で1日に使われる水が、学校のプール14000杯分ということに驚いた。」「人間が生きていくには水が必要不可欠ということを知った。」などの感想があり、「水」に対する意識が変わったようです。今回の授業をこれからの学習につなげていきたいと思います。

 

 

 

≪3年生読書 落語家派遣授業≫

 恒例となった桂米多朗(かつらよねたろう)師匠にお越しいただいての全3回授業。今年度はオンラインでの開始となりました。愉快な落語解説や古典落語「平林」「牛ほめ」に画面越しで大笑い♪コメント欄にはたくさんの「楽しい」「すごい!」「劇みたい!」「仕草が大きくできてすごい!」「落語をもっと聞きたいです!」の書き込み。「とっても楽しくて、授業の後に小咄を家でやってみせたら笑ってもらえました。」という子もいました。
 出囃子太鼓・仕草・小咄のワークショップも、叩くバチや太鼓になるもの、扇子や手ぬぐいを用意してオンラインで行いました。会場では両担任の先生が小咄、太鼓にチャレンジ。三味線名取の足立奈保さんから、詳しい三味線解説も聞き、3つに分解して持ち運び簡単、3本の糸の太さが違うこと、音は勘所を押さえて覚えることなどを知りました。古典芸能から「勘所を心得た」「要となる人」(=要は扇をとじ合わせる釘の部分)という言葉を知る機会にもなっています。
 この後、読書の授業では3年生全員が落語表現に取り組むことになります。どんな落語が飛び出すか!今から楽しみです♪

≪6年生 南三陸スタディツアー≫

 2015年から始まった6年生の南三陸スタディツアー。今年度も、コロナ禍の影響によりオンラインでの実施となりました。南三陸研修センター「いりやど」のスタッフの方々から、たくさんのご協力とアドバイスをいただき「南三陸の方々に出会おう・南三陸を好きになろう」をテーマに、9月14日、実施の日を迎えました。
 当日は、今年の3月に震災から丸10年を迎えた現地と中継をつなぎ、画面から美しい南三陸の海・里・空を感じることができました。復興の進む街の中心にある「復興祈念公園」からは、鈴木清美さんの案内で「祈りの丘」から街の様子を見せていただき、被災された方々やそのご家族に向けて黙祷をお捧げしました。復興祈念公園の一角に建つ防災対策庁舎。画面越しからも大きな津波の爪痕がはっきりと分かり、伝わってくる津波の威力や恐ろしさに子どもたちの表情もぐっと真剣になったようでした。
 震災当時5年生だった三浦千裕さんは、当時避難した小学校跡地からの中継で、実際に避難した経路をたどりながら当日のことを語ってくださいました。震災は「当たり前の日常があんな一瞬でなくなってしまう」とふり返りつつ、「人生は大変なこともあるけれど、世界中の人を笑顔にしたい」と優しい笑顔で語り掛けてくださる千裕さん。大きな夢に向かって力強く歩む姿は、6年生にも強く印象に残ったようでした。
 南三陸の自然を愛し、農業・漁業・林業にそれぞれ携わっている方々からは、事前に各ご家庭に南三陸の特産品が詰まった「南三陸ボックス」が届けられました。現地に行くことはできなかったけれど、畑や港と中継をつなぎながらおうちの方々も一緒に、おいしい果物やスイーツをいただいたり、杉の木のいい香りをかぎながらクラフトワークに取り組んだりと、オンラインならではの環境を活かしたスタディツアーを楽しむことができました。
 たっぷり南三陸を体験したあと、少し落ち着いて「ふり返り」の時間を設け、その中で浮かび上がってきた「知りたいこと」「伝えたいこと」を整理しました。それを経て、2週間後の9月27日には、もう一度南三陸の方々とオンラインをつなぎ、ヒアリングプログラムを実施しました。6年生からは、なつかしい笑顔のみなさんにたくさんの質問や感想を伝えることができ、より理解を深めるきっかけになったように思います。
 「私たちのために、辛いことも笑顔でお話してくださったことを忘れません」「この瞬間が最後になるかもしれないと思って、毎日友達や家族と暮らしたいと思います」。日記には、スタディツアーでの出会いが、子どもたちの心にしっかり届いたことが記されていました。
 これから、ご家庭で「南三陸」が話題にのぼる頻度が増え、事態が落ち着いたらご家族とともに現地を訪れることが、今回のプログラムを支えてくださった方々への、何よりのお礼になるのではないかなと考えています。