「寄り添う」リーダーシップ
「寄り添う」リーダーシップ 教頭 吉田 太郎
『女神的リーダーシップ』(2013.John Gerzema ,Michael D’Antonio)という本を本棚から引っ張り出し、読み直しています。副題には、≪男性的価値観はもう通用しない?〜世界を変えるのは、女性と「女性のように考える」男性である〜≫とありました。女性を女神として一括りにしている表現に多少の引っ掛かりを感じつつ、読みすすめるうちに、なるほど社会変革やリーダーに必要な資質の多くは男性的か女性的かと分類するならば、そういうことかと……。
2020年のコロナ禍において、世界のリーダーとして注目された人物をあげるとすると、おそらく、ニュージーランドのアーダーン首相(Jacinda Ardern)とドイツのメルケル首相(Angela Merkel)、台湾の蔡英文総統という女性リーダーたちの名前があがることでしょう。いずれも新型ウィルス感染症への対応において国民に厳しい外出制限や渡航の禁止、経済への制限を要求する強行策をとった国のリーダーです。ニュージーランドは島国で厳格な渡航制限によって封じ込めに成功し、一方のドイツは日本を遥かに上回る罹患者、犠牲者を出しながらも都市封鎖を解除し、経済活動の再開を進めています。台湾の蔡英文総統はテクノロジーを活用し、民主的に防疫戦に取り組んだと評価されています。普通なら国民から不平や不満が噴出しそうなところを、この女性リーダーらはできるだけ明快に、そして誠実に国民へ語りかけ、寄り添う姿勢を示しながら、理解と支持を得ていきました。
一方、常に強気の発言を繰り返し、対応の不味さが際立つアメリカの大統領。自らが煽ってきた分断が大きな暴動やデモへと発展し、まさに炎上しています。そして、何をしても批判が鳴り止まない日本の首相。コロナを抑え込めたかどうか、犠牲者の数や、男性か女性かということ以外に、国の指導者らの評価が分かれるポイントはどこにあったのでしょうか。
ひと昔前の昭和の時代であれば、強いリーダーシップ、カリスマ性といったものが求められ、多少強引なトップダウンも許容されました。しかし、Society5.0といわれるこれからの時代においては、マッチョで男性的なリーダーの言動は暴力的と危険視され、嫌悪されるものとなっています。もう、そんな時代はとっくに終焉したのに、まだ気がつかない、変化に対応できない指導者がいることが残念でなりません。今、本当に必要なのは「誠実」「共感」「協働」「合意形成を促すことができる」粘り強い人格であるということが、グローバルスタンダードであることを受け入れるべきでしょう。
先の見えない不安の中で、疑心暗鬼になったり、自己防衛本能から感染した人を責めたりするような状況、不安が他者への批判や攻撃につながるような現象が今後起こりうるかも知れません。しかし、私たちは理性によって、できるだけ科学的な知見に重きを置きつつ、冷静に恐れる姿勢を堅持していきたいと思います。そして、それぞれの場所で求められるリーダーに必要な資質とは「社会の中で弱くされた人の立場に立って考え、行動できること。共感し、寄り添うことのできる人格。」であるということを心に留めたいと思います。
立教女学院はどういった人を育てていかなければならないのか、混沌とした時代だからこそ、1877年に創立された立教女学院の変わらない価値、ミッションを改めて考えていきたいと思います。